証拠に基づいた治療

米国国立精神衛生局自閉症ウェブサイト(National Institute of Mental Health autism website.)では、「証拠に基づいた効果的な自閉症の治療法」について、次のように述べています。

 

...自閉症を持つ人々への治療法や教育には様々な方法が知られていますが、中でも応用行動分析(ABA)が効果的な治療法として幅広く受け入れられています。「精神衛生:米国公衆衛生局長官の報告」は「30年の研究により、応用行動分析は不適切な行動を減らしコミュニケーション、学習と適切な社会的行動を増やすことに効果があることが明らかとされた」と述べています。カリフォルニア大学ロスアンゼルス校のアイバー・ロバース教授と彼の同僚による基礎研究は、子供とセラピストの一対一の集中的なセラピーを週に40時間行うことで、自閉症スペクトラム障害を持つ子供たちの可能性を実現させ、これにより他の教育者や研究者に効果的な早期介入治療をさらに改良するための基盤を与えました。

 

 行動管理のゴールは、望ましい行動を強化し望ましくない行動を減らすことにあります。効果的な治療プラグラムには、子供の興味を基盤におき、予測できるスケジュールを提供し、簡単なステップのシリーズとしてタスクを教え、高度に構造化されたアクティビティによって子供の注意を常に向けさせ、定期的に行動を「強化」することが組み込まれます。親の関与は、治療を成功させる大きな要因であることが知られており、親は教師やセラピストと共に、どの行動を変えるのか、どのスキルを教えるのかを確認します。親は子供の一番最初の教師であるという認識に立ち、家庭での介入治療を継続させるための親のトレーニングを組み込んだプログラムが増えています。

 

お子さんに診断が下ったら直ちにABAセラピーを始めるのが理想です。効果的なプログラムは、初期レベルのコミュニケーションと社会的交流スキルを教えます。 一般的に、3歳以下のお子さんは、ご家庭か育児施設で適切な介入治療が行われます。これらの治療では、学習、言語、イミテーション(真似)、注意力、やる気、協調性や自発的な意志の疎通の具体的な欠陥をターゲットにします。これらには、行動療法の手法、コミュニケーション、作業療法や理学療法のほか、他の子供たちと一緒に遊ぶセラピーが含まれます。しばしば、一日のプログラムは、体のコーディネーションと身体意識を発達させるため、体を動かす訓練から始まります。 子供たちはビーズ玉を糸に通したり、パズルをしたり、絵を書いたりなど、運動技能を高めるアクティビティを行います。おやつの時間には教師が相互交流を促し、例えばジュースがもっと欲しい時にはどのような言葉を使うかなど、お手本を示します。子供たちは行動することで学びます。広く訓練を受けた学生、行動セラピスト、そして親が子供たちと介入治療を行うチームを形成します。子供たちを教える際には、「褒める」「好きなものをご褒美として与える」などのポジティブ・リインフォースメント(好子を用いた行動の強化)を用います。

 

 (米国国立精神衛生局自閉症ウェブサイトより抜粋、著者訳)

 

行動とコミュニケーションのアプローチ

 

米国小児科学会と国立リサーチカウンシルは、自閉症スペクトラム障害を持つお子さんには、親の参加に加えて、子供のために構造性とクリアな目標を備え、組織化された行動とコミュニケーションのアプローチが有効であると報告しています。

 

応用行動分析(ABA)

 

自閉症スペクトラム障がいへの有効な治療法として、ABAと呼ばれる応用行動分析があります。ABA はヘルスケアのプロの間で広く受け入れられ、多くの学校や介入治療クリニックで用いられています。ABAはポジティブな行動を促し、ネガティブな行動を抑え、様々なスキルを向上させます。 子供の進歩は測定され、記録されます。

 

ABAには、以下の例を含む幾つかのタイプがあります。

 

  • ディスクリート・トライアル・トレーニング(DTT)
    DTT は、望ましい行動もしくは反応の各ステップを連続的なトライアル(試行)を通じて教えてゆくものです。レッスンは最も簡単な部分に分解し、望ましい行動や反応には「ご褒美」などのポジティブ・リインフォースメント(好子を用いた行動の強化)を用います。誤った反応は無視されます。

 

  • 早期集中行動介入治療 (EIBI)
    これは一般的に5歳未満の自閉症児に対して処方されるタイプのABAですが、3歳未満でもしばしば行われます。

 

  • ピボタル・レスポンス・トレーニング(PRT)
    PRTは 、学習や、自らの行動のモニタリング、また他者とのコミュニケーションを自主的にはかるなど、子供にの自主性を伸ばします。これらの行動のポジティブな変化は、他の機能的な行動に広範囲で影響を及ぼします。

 

  • 言語行動介入治療(VBI)
    VBIはABAのタイプの一つで、言語スキルに焦点を置いた教授法です。

 

(米国疾病管理防止局ウェブサイト より抜粋 著者訳)

http://www.cdc.gov/ncbddd/autism/treatment.html 

 

*これ以外にも、別欄に説明しますが、積極的行動支援(Positive Behavior Support: PBS)も重要なアプローチのの一つです。

薬では自閉症は治らない

自閉症スペクトラム障害の処方薬について、米国国立疾病予防管理センターでは以下のように記述しています。

 

 ”自閉症を治す薬は存在しません。主な症状を治療する薬すらありません。しかし、ある種の薬は、一部の人々の自閉症に関わる症状を抑えることに役立っています。 例えば、エネルギーが有り余っている状態(他動など)、集中できない、鬱状態やけいれんなどを抑えるのに効果があるかもしれません。また、米国食食品医薬品局(FDA)は自閉症の診断を持つ5~16歳の子供で、ひどいかんしゃく、攻撃性、自傷行為が認められる場合、リスペリドン(抗精神病剤の一つ)の使用を許可しています。”

 

以下に、同センターサイトより関連情報を参考までに抜粋しました。

 

          治療に用いられている薬について

 

  攻撃性、自傷行動、ひどいかんしゃくなどの問題行動があるため、自閉症の診断を持つ人が家庭や学校で効果的に機能できない場合、しばしば薬剤が用いられます。これらの薬は他の疾病による類似した症状を抑えるために開発されたものです。これらの多くの薬物は「オフラベル(承認適応症外使用)」つまり、子供への使用のFDAの公式の承認を未だ得ない段階で、医師の個人的判断によって処方されています。これらの抗精神病剤を小児や若年者が利用することの効果ならびに安全性について、さらなる研究が必要とされています。

  2006年10月6日米国食品医薬品局(FDA)は、年齢が5〜16才の自閉症の小児および青年における興奮性の症状の治療にリスペリドン(一般名)またはリスパダール(ブランド名)を承認しました。この承認は、子供の自閉症に関連付けられている問題行動を治療する薬剤使用の最初のものです。これらの「問題行動」は一般的な神経過敏性という表題にもとに分類され、症状には攻撃性、故意の自傷やかんしゃくが含まれます。

  オランザピン(ジプレキサ)や他の抗精神病薬は、自閉症児を含む子どもの攻撃性や他の深刻な行動障害の治療のために"オフラベル"で使用されています。オフラベルは、医師が薬を、FDAにより承認されたものの中に含まれていない疾患や年齢層を対象とした治療に処方することを意味します。他の薬は、自閉症児の症状や他の疾患に対処するために使用されます。フルオキセチン(プロザック)とセルトラリン(ゾロフト)は、強迫性障害を持つ7歳以上の子供のためにFDAによって承認されています。フルオキセチンはまた、8歳以上の子供のうつ病治療のために承認されています。   

  フルオキセチンとセルトラリンは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)として知られている抗うつ薬です。SSRIと他の抗うつ薬の相対的な安全性と人気にもかかわらず、いくつかの研究は、彼らが何人かの人々、特に青年および若年者に対し意図しない影響を与えることがあると示唆しています。 2004年には、データの徹底的な見直し後に食品医薬品局(FDA)は、抗うつ薬を服用する小児および青年における自殺思考や試みの潜在的なリスクの増加について国民に警告するために、すべての抗うつ薬の"ブラックボックス"警告ラベルを採用しています 2007年にはFDAは、25歳までの若い成人を対象に含めるように警告を拡張しました。 "ブラックボックス"警告は、処方薬のラベルに表示される警告の最も深刻なタイプです。この警告は、特に治療の初期の数週間の間に、すべての年齢層の患者を対象に、うつ病、自殺思考または行動の悪化、またはそのような不眠、激越、または正常な社会的状況からの「引きこもり」など、行動の異常な変化について綿密に監視されるべきであると強調しています。
  自閉症スペクトラム障害を持つ子どもは、薬剤に対して通常の発達をしている子供と同じような反応をしないことがあります。親が自閉症児診療の経験を持つ医師と連携することが重要です。薬を服用しながら子供を注意深く監視する必要があります。医師は効果を発揮する最低必用量を処方します。薬の副作用について医師に相談し、子供が薬物にどのように反応するかについて記録を保ちましょう。お子さんの薬に付属した"患者への説明"を参考にしてください。一部の人々はリファレンスとして使用される小型のノートブックに患入しています。複数の薬が処方されているときにこれが最も便利です。

 

 不安と抑うつ選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIのは)最も頻繁に不安、抑うつ、および/または強迫性障害(OCD)の症状のために処方される薬です。 SSRIのうち、フルオキセチン(プロザック®)だけが7歳以上の子供に、OCDとうつ病の両方のためにFDAによって承認されています。OCDのために承認されている三つの薬剤は、フルボキサミン(ルボックス®)、8歳以上;セルトラリン(ゾロフト®)、6歳以上; クロミプラミン(アナフラニール®)、10歳以上、となっています。これらの薬による治療は、反復的、儀式的な行動の減少、アイコンタクトの向上や社会的接触の改善と関連付けることができます。 FDAは、可能な限り最も低い用量でSSRIをより安全に効果的に使用することができるかを理解するためにデータを分析しています。

 

行動上の問題。抗精神病薬は、深刻な行動上の問題を治療するために使用されています。これらの薬物は神経伝達物質のドーパミンの脳の活動を減らすはたらきがあります。ハロペリドール(Haldol ®)、チオリダジン、フルフェナジン、とクロルプロマジンのような古い典型的な抗精神病薬のうち、ハロペリドールのみが深刻な行動障害の治療においてプラセボよりも有効であることが複数の研究で発見されています。ハロペリドールは攻撃性の症状を軽減する一方で、鎮静作用、筋肉のこわばり、および異常な動きのような有害な副作用を起こす可能性があります。

  新しい"変型"抗精神病薬のプラセボ対照試験が、自閉症児に対して行われています。小児精神薬理学(RUPP)自閉症ネットワークのNIMH -サポートされている研究ユニットが実施した初の調査は、リスペリドン(リスパダール®)に関してでした。8週間の試験の結果が2002年に報告され、リスペリドンが良好な耐容性を持ち、自閉症児における深刻な行動上の問題の治療のために有効であったことを示しました最も一般的な副作用は、食欲、体重増加や鎮静作用の増加でした。どのような長期的な副作用があるのかを決定的に把握するためにはさらに長期的な研究が必要とされます。最近研究されている他の非定型抗精神病薬で有望な結果が示されてるものは、オランザピン(ジプレキサ®)およびジプラシドン(ジオドン®)です。ジプラシドンと大幅な体重増加との関連は報告されていません。

 けいれんの発作。けいれん発作は、知能指数が低いか、言葉の不自由な自閉症の方に4人に1人の割合でで発見されています。彼らは、一つか複数の抗痙攣薬の治療を受けています。これらには、カルバマゼピン(テグレトール®)、ラモトリジン(Lamictal ®)、トピラマート(Topamax ®)、およびバルプロ酸(デパコート®)などの薬が含まれています。血液中の薬物のレベルは可能な限り最小の量で効果が得られるように、慎重に監視し、調整する必要があります。薬は通常、発作の数を低減しますが、常にそれらを排除することはできません。

 

不注意や多動注意欠陥多動性障害を持つ成人に対して安全かつ効果的に使用されているメチルフェニデート(リタリン®)などの刺激薬は、また自閉症児のためにも処方されています。これらの薬は、一部の子供たち、特に高機能の子どもたちの衝動性や多動性を低下させることがあります。

  いくつかの他の薬物が自閉症スぺクトラム障害の症状を治療するために使用されていますが、その中には他の抗うつ薬、ナルトレキソン、リチウム、およびジアゼパム(バリウム®)やロラゼパム(Ativan ®)などのベンゾジアゼピンの一部が含まれます。自閉症児におけるこれらの薬剤の安全性と有効性はまだ証明されていません。人は異なる薬に対し異なる反応をする可能性があるので、医師はお子さんのユニークな既往歴と行動をもとに最も有益であるかもしれない薬を判断するでしょう。