By Aidan T.
By Aidan T.

自閉症スペクトラム障害(Autistic Spectrum DisorderASD) 

早期診断と治療のための基礎知識 

 

自閉症の発症率

   Autism「自閉症」ギリシャ語の「自分」という意味のautoに由来して付けられた名称です。日本語訳では「自分の世界に閉じこもる」病気のようなニュアンスが出てしまいますが、実際は症状も多様、診断も複数タイプがあります。その発症率は30年前には1000人に1人程度とされていたのですが、昨年米国の疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and PreventionCDCは、米国内においては「110人に1人の8歳児の子供が自閉症」というデータを発表しましたが、その数は依然として増加しています。男児に多く、女児の4倍と報告される「自閉症」は近年、人種、民族、社会的経済的な環境に関わりなく世界的に増え続けています

 

タイプと症状

    正確に言えば「自閉症」は自閉症スペクトラム障害(Autistic Spectrum Disorder, ASD)として知られる障害の一つです。ASDは社会交流やコミュニケーションに大きな機能障害を起こす発達障害であり、「普通と違った」行動や興味を伴います。ASDの特徴として、学習困難、注意散漫、多動、言語能力の発達の遅れまたは独特な思考法、感覚異常を伴う傾向がありますが、その程度や学習能力、社会性の発達度は様々です

  ASDには「自閉症 (Autistic disorder)」「(非定型自閉症を含む)特定不能の広汎性発達障害 (pervasive development disorder- not otherwise specified including atypical autism, PDD-NOS)」「アスペルガー症 (Asperger syndrome)が含まれます。これらのうち、アスペルガー症及び高機能自閉症は言語の発達、知能指数など普通レベル(かそれ以上)に達する場合が多いため診断が難しい傾向がありますが、以下の共通の「危険信号」に気をつけていれば、早期診断も十分可能です。(米国疾病予防管理センターHP参考

       “ごっこ遊び”ができない(例:人形に“食べさせる”まね)

       興味の対象を指差して示さない(例:飛んでいる飛行機を指差す)

       誰かが指差している対象物に目を向けない

       他者と関わることが出来ず、また他者に興味を持たない

       アイコンタクトを避け、一人でいることを好む

       他者の感情を理解すること、自分の気持ちを話すことが苦手

       抱っこされるのを嫌がる傾向がある

       誰かに話しかけられても気付かないが、他の(無機的な)音には反応する

       回りの人や子供に興味を示しても、話しかけたり、一緒に遊んだり、関わる事ができない

       他人の言葉をそのまま繰り返したり、同じ言葉や表現を繰り返す(反響言語

       言葉やジェスチュアで必要性を表現できない

       同じ行動やしぐさを何度も繰り返す

       場所、時間、環境などの変化に対応できない

       におい、味、見た目、感触、音などに「普通ではない」反応を示す

       習得した能力を失う(例:言葉を話さなくなる)

もしお子さんが言葉を話さなくなるなど、発達の退行が見られたら医師か看護婦に相談してください。

 

原因に関する誤った認識

  ASDの原因は諸説あり解明されていませんが、遺伝的かつ環境要素が大きく関与していると考えられ、家族にASDもしくは関連した障害が認めらる場合が少なくありません。また先天的にASDの発症をしやすい子供の場合、 発達段階で障害を誘発し得る主要素については未だ確認されていません。ウイルス感染、妊娠中及び出産に伴う困難、新陳代謝のアンバランスや、環境における化学物質への暴露など、ASDに は多様な要因が関わっていると考えられます。しかし、「母親の態度が冷たい」「親のしつけが悪い」ことから子供が「自閉症」になるという考えには科学的な 裏付けがなく、逆にそのような考えが蔓延することにより、サポートが必要な家族が孤独な立場に追いやられ、ストレスを背負い込む状況を作り出して来た傾向 があります。

アセスメント、診断と治療

  ASDの 診断は各国で手順、方法、待ち期間など事情が異なりますが、一歳半の時点で診断が可能な場合もあり、2歳までには信頼できる診断を得ることが十分可能であ ると考えられています。日本でも、1歳半の時の乳幼児検診で「自閉症」の症状が見られるときには、経過を観察することになっており、3歳児検診のころに は、症状もそろうのではっきりとした診断ができるようになります。しかし、ASDの診断は「行動的に定義された基準」によるため、現実は小児科医などの専門家の知識が乏しい傾向があり、親が正しい基礎知識を身につけ、その土地の医療福祉制度を知り、確かな専門家や機関に相談することが大切です。

  カナダでは州によってASD児への制度的な対応や支援は異なり、BC州では基本的にASDのアセスメントと診断はファミリードクターを通じてBC州自閉症アセスメントネットワークBritish Columbia Autism Assessment Network (BCAAN) への照会手続きが必要とされます。BCAANはBC州においてASDの可能性のある子供のアセスメントと診断の手配を受け持つ機関で、家族の住居に可能な限り近い場所でアセスメントが行えるようにアレンジしています。アセスメントの費用はBCメディカルでカバーされるので無料です。詳細はBCAANウェブサイトhttp://www.phsa.ca/AgenciesServices/Services/Autism/autism-assessment-programs.htm、または事務局604 453-8343に英語でお問い合わせください。

  しかしBC州での無料アセスメントは現在、1年程の「待ち期間」があるとされ、早期診断と治療が何よりも必要とされる多くの自閉症児とその家族は、歯がゆく厳しい状況に立たされています。BCAANはその設定基準に沿った臨床専門家がASDのアセスメントと診断を行うことを許可しており、その場合費用は家族が負担することになりますが、「待ち期間」は大幅に短縮されます

 

文化と言語の影響

   ASDの アセスメントには文化的な要素が大きく介入することが近年の研究で報告されており、米国などでは早期診断、アセスメントの際にも英語以外の言葉が家庭で話 されている場合、母語によるアセスメントを同時に行うようになってきています。言語学の分野では複数言語環境に置かれた子供たちが一つの言語も習得し得な いで育ってしまうことをセミリンガリズムと呼んで来ましたが、その要素が自閉症のアセスメントに考慮されるようになって来たのは僅かこの数年のことで、残 念ながらBC州内では未だに「英語オンリー」のアセスメントとセラピーが主流になっています。これはアセスメントのみならず、子供の将来の文化的アイデン ティ、言語環境維持にも大きく影響する問題ですが、BC州にはバイリンガル指導の出来るASD臨床専門家は少なく、これからの課題と言えるでしょう。

  またASDの臨床的な解釈は、ネガティブな側面に焦点を置くため、その診断を得ることで大きなショックを得る家族が多いのですが、実はASDの 子供や成人の中には言葉の発露の有無に関わらず、秀でた興味や才能を開花させ、優れたリーダーとして活躍する人々が少なくありません。子供のユニークな個 性と才能を伸ばし、より意味深い人生を共に歩んでゆくため、診断を避けるのでなく、それを理解、協力、支援を得るためのステップとして受け止め、親とし て、家族として自分に何が出来るのか、積極的なビジョンを確立してゆくことが大切です。

 

Autism FundingセラピーのためのBC州政府の援助金

    米国ではIDEAと呼ばれる障害者法により、発達障害のおそれのある子供はASDの診断を待たずに適切なセラピーやサポートが受けられることが法的に定められています。しかし、カナダにはIDEAに匹敵する法律は存在せず、発達障害を含む障害者への対応や支援は各州の政府の判断に準じています。BC州では、「オートン裁判」と呼ばれる、自閉症児の親がBC州政府を相手にその支援体制が不十分であるとして訴訟を起こし、オートン氏が州最高裁で勝訴したことが契機となり、2002年よりASD の診断を持つ子供に対し、6歳以下年間2万ドル、7歳から18歳まで年間6千ドルの援助金が与えられるようになりました。オーティズムファンディング(Autism Funding) というこの援助金はBC州政府子供と家族発展省(Ministry of Children and Family Development, MCFD)によって管理され、行動療法、作業療法、言語療法などのセラピーや、家庭でのセラピーに必要な教材、親のトレーニング費用などに用いることが出来ます。また数は限られ「待ち期間」が長い欠点はありますが、6歳以下の子供を対象に早期集中行動療法プログラム(Early Intensive Behavioural Intervention Program, EIBIも提供されています。(詳細はCommunity Living BC, 電話604 660-2421フリーダイアル1 800 663-7867 Email: info@communitylivingbc.caまで)

   行動療法を中心としたASD児へのセラピーは特に2歳から3歳から始めた場合が最も効果的という研究報告が出ており、また5歳未満で集中的なセラピーを始めた場合、アメリカでは学校の普通学級に進学できる可能性が高いというデータも出ています。しかし、ASDは原因が分からない障害なので、完全回復も無いと解釈されます。回復したかに見える高機能ASDの成人であっても、社会の様々な面で対応できず、独立して生活することが難しい傾向があります。Expect the least and be surprised. Be delighted at the slightest progress” 期待はかけすぎないように、でも子供の成長に驚くことでしょう。ほんの少しの進歩でも、褒めて喜ぶことよ。」と息子の診断医が診断時に言った言葉を、私は忘れることが出来ません。